月別アーカイブ: 2015年10月

ロコ・アート

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[11]

『カメラと機関車 別冊「ロコ・アート」』佐々木桔梗
No.1 1971.6・限定1250部
No.2『幻想急行』1971.8・限定1500部
No.3『街の中の蒸気機関車』1972.10・限定725部
プレス・ビブリオマーヌ

 『カメラと機関車』の別冊として、その後を継ぐようなかたちで刊行された『ロコアート』は各号趣が異なった内容で、判型もそれぞれ違っている。
 1号は鉄道写真に関する話題で、モータードライブによる連続撮影や決定的瞬間について。2号は『幻想急行』と題した異色の写真集。著者によれば「C62重連急行というイメージを、シュールレアリスム的な解釈のもとに追究した絵画的手法」ということで、夜の機関車をスローシャッターで撮影した前衛的な(一般のマニアには向かない)作品になっている。3号は『街の中の蒸気機関車』と題したヨーロッパ旅行の印象をまとめた写真集。ドイツのハンブルクで01形蒸機のキャブに乗せてもらった思い出が制作の動機になったという。3冊中、最も大きな判型で、グラフィック・デザインを意識したレイアウトになっている。この号にも75部の特別版があり、V型エンジンのドイツ製19.10形蒸機と裸婦を組み合わせた寺島勝治の銅版画が付録としてつく。

機関車のある風景

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[12]

『機関車のある風景』清水寥人
1970.10・限定1000部
プレス・ビブリオマーヌ

 ビブリオマーヌが刊行した鉄道関連書の殆どは桔梗氏自身によるものだが、他の著者によるものも数冊存在する。清水寥人(1920-1994)の小説『機関車のある風景』はその1冊。
 清水寥人は国鉄の機関士として業務を続けながら創作活動を行った作家で、定年退職を間近に控えた機関士の悲哀を綴った「機関士ナポレオンの退職」など、職場での体験を活かした小説を残しているが、この『機関車のある風景』も、機関士の夫を事故で亡くし、列車の清掃婦として働く未亡人の日々を描いている。
 舞台は、国鉄の蒸機が消えようとしていた昭和40年代の高崎周辺。清水寥人の郷里は高崎に近い信越本線の安中で、この作品にでてくる風景はすべて実景だという。
 「汽笛の音に驚いたのか、煤煙に汚れた十数羽のまっ黒雀が、いっせいに給炭台からとびたった。」など、蒸機が待機する構内のリアルな描写も、実際に鉄道の仕事をしていた著者ならでは。
 黒岩保美によるペン画(一部に版画)の挿絵が、この小説をより趣深いものにしている。
 並装625部のほかに特装版375部。特装版(画像のもの)は、純金番号入りの蒸機のシルエットを表紙に嵌入した白の総革装で、紺の布装夫婦函に納まる。

列車詩集と転轍手

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[13]

『列車詩集』山中散生(ちるう)
1980.夏・限定235部
プレス・ビブリオマーヌ

『転轍手』フワン・ホセ・アレオラ 桑名一博:訳
1980.初冬・限定315部
プレス・ビブリオマーヌ

 ビブリオマーヌ刊の鉄道関連書には、桔梗氏や清水寥人の著作のほかにも上記の2冊がある。
 シュルレアリスムの詩人、山中散生(1905-1977)の『列車詩集』は、1942(昭和17)年に発表された知られざる20篇の詩を刊行したもの。カットを詩人の北園克衛が描いている。ただし、鉄道を題材としながらも、一般の鉄道マニア向けとは言えない前衛的な作風だ。

食堂車 『列車詩集』より
皿の上には
魚の骨が残る
パセリを噛み
一匙の旅愁を嚥み下す
『ナイフ氏とフォーク嬢』
という題名のついた本のページを
やたらに繰る

 なお、「鉄道ファン」No.229(1980.5)に掲載された、桔梗氏による「山中散生「列車特集」とアンプ「レール」の紹介」でも『列車詩集』の全編を読むことができる。
 表紙絵はカッサンドルの描いた有名なポスター「北極星号」。特別版135部にはグレーの皮革製コフル(カバー)がつく。

 また、メキシコの作家、フワン・ホセ・アレオラ(1918-2001)の『転轍手』は1952年に発表された小説で、駅に現われた転轍手の不条理な話が、目的地に辿り着けない旅行者を不安に陥れる。ちょっと、つげ義春の漫画「ねじ式」を思わせる、これもシュルレアリスム風の掌編。
 メキシコの作品に相応しく、インディオによる、樹皮のような手漉紙のアマテを表紙に用いている。特別版には若草色の皮革製コフルがつく(部数不明)。