佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ」カテゴリーアーカイブ

告別の訪問“機関車”

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[9]

『VISITE D’ADIEU “LOCOMOTIVE” 告別の訪問“機関車”』佐々木桔梗
1969.5・限定1125部
プレス・ビブリオマーヌ

 真冬の長万部、足回りを雪で白くしたC62の重連を斜め後方から捉えた写真。「SL」No.10(1976・交友社)掲載の「忘れ得ぬ蒸気機関車情景」にも選ばれたこの1枚を中心に構成した写真集。
 刊行当時の1960年代末はSLブームの真っただ中、C62の写真集は「驚異的な早さで売り切れてしまった」という。
 フランス語のみの洋書を思わせる表紙は、桔梗氏が影響を受けたドイツの「LOK MAGAZIN」を意識したデザイン。そのため敢えてドイツ語にせずフランス語にしたのだろう。
 装幀は従来のビブリオマーヌらしからぬ雑誌風だが、厚口の紙を用いて、写真と文章を異なるインクで別々に印刷するなど、プライベート・プレスならではのこだわりが感じられる。
 また、蒸気機関車への別れとともに、長年蒐集してきた「切手にも別れの手を振ろう」と、汽車の絵柄の切手を、巻頭ページに1枚ずつ貼付けている。

カメラと機関車

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[10]

『カメラと機関車』佐々木桔梗
No.1 1970.2, No.2 1970.5, No.3 1971.1
各限定1500部
プレス・ビブリオマーヌ

 表紙に記された「CAPRICE-PUBLICATION」は“気まぐれ刊行”と訳したらいいのか。『告別の訪問“機関車”』と同じ体裁による、不定期刊行の個人誌である。
 『カメラと機関車』というタイトルは、桔梗氏が少年時代に感銘を受けた吉川速男による同名の著書(1938・玄光社)から採られている。
 全ページ、タイトルも小見出しもない書き流し風のエッセイで、1号は少年時代の昭和初期に撮影した鉄道写真や、終戦間もない頃、新聞に書いた鉄道記事の思い出話など。2号は汽車の絵柄の本、マッチラベル、ポスター、絵画などを紹介。こうした記事は、のちに「鉄道ジャーナル」の「装本芸術と汽車」(No.125 1977.7-No.130 1977.12)や「ポスターと書物のドラマ」(No.131 1978.1-No.160 1980.6)といった連載に発展した。3号は再び少年時代の鉄道写真、吉川速男の著作などに触れる。
 表紙は『告別の訪問“蒸気機関車”』同様、洋書を思わせるデザイン。第3号の75部は特別版として、「ロイヤル・スコット」をモチーフとした、小林ドンゲによるシュールな銅版画が付録としてつく。

ロコ・アート

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[11]

『カメラと機関車 別冊「ロコ・アート」』佐々木桔梗
No.1 1971.6・限定1250部
No.2『幻想急行』1971.8・限定1500部
No.3『街の中の蒸気機関車』1972.10・限定725部
プレス・ビブリオマーヌ

 『カメラと機関車』の別冊として、その後を継ぐようなかたちで刊行された『ロコアート』は各号趣が異なった内容で、判型もそれぞれ違っている。
 1号は鉄道写真に関する話題で、モータードライブによる連続撮影や決定的瞬間について。2号は『幻想急行』と題した異色の写真集。著者によれば「C62重連急行というイメージを、シュールレアリスム的な解釈のもとに追究した絵画的手法」ということで、夜の機関車をスローシャッターで撮影した前衛的な(一般のマニアには向かない)作品になっている。3号は『街の中の蒸気機関車』と題したヨーロッパ旅行の印象をまとめた写真集。ドイツのハンブルクで01形蒸機のキャブに乗せてもらった思い出が制作の動機になったという。3冊中、最も大きな判型で、グラフィック・デザインを意識したレイアウトになっている。この号にも75部の特別版があり、V型エンジンのドイツ製19.10形蒸機と裸婦を組み合わせた寺島勝治の銅版画が付録としてつく。

機関車のある風景

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[12]

『機関車のある風景』清水寥人
1970.10・限定1000部
プレス・ビブリオマーヌ

 ビブリオマーヌが刊行した鉄道関連書の殆どは桔梗氏自身によるものだが、他の著者によるものも数冊存在する。清水寥人(1920-1994)の小説『機関車のある風景』はその1冊。
 清水寥人は国鉄の機関士として業務を続けながら創作活動を行った作家で、定年退職を間近に控えた機関士の悲哀を綴った「機関士ナポレオンの退職」など、職場での体験を活かした小説を残しているが、この『機関車のある風景』も、機関士の夫を事故で亡くし、列車の清掃婦として働く未亡人の日々を描いている。
 舞台は、国鉄の蒸機が消えようとしていた昭和40年代の高崎周辺。清水寥人の郷里は高崎に近い信越本線の安中で、この作品にでてくる風景はすべて実景だという。
 「汽笛の音に驚いたのか、煤煙に汚れた十数羽のまっ黒雀が、いっせいに給炭台からとびたった。」など、蒸機が待機する構内のリアルな描写も、実際に鉄道の仕事をしていた著者ならでは。
 黒岩保美によるペン画(一部に版画)の挿絵が、この小説をより趣深いものにしている。
 並装625部のほかに特装版375部。特装版(画像のもの)は、純金番号入りの蒸機のシルエットを表紙に嵌入した白の総革装で、紺の布装夫婦函に納まる。