佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ」カテゴリーアーカイブ

列車詩集と転轍手

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[13]

『列車詩集』山中散生(ちるう)
1980.夏・限定235部
プレス・ビブリオマーヌ

『転轍手』フワン・ホセ・アレオラ 桑名一博:訳
1980.初冬・限定315部
プレス・ビブリオマーヌ

 ビブリオマーヌ刊の鉄道関連書には、桔梗氏や清水寥人の著作のほかにも上記の2冊がある。
 シュルレアリスムの詩人、山中散生(1905-1977)の『列車詩集』は、1942(昭和17)年に発表された知られざる20篇の詩を刊行したもの。カットを詩人の北園克衛が描いている。ただし、鉄道を題材としながらも、一般の鉄道マニア向けとは言えない前衛的な作風だ。

食堂車 『列車詩集』より
皿の上には
魚の骨が残る
パセリを噛み
一匙の旅愁を嚥み下す
『ナイフ氏とフォーク嬢』
という題名のついた本のページを
やたらに繰る

 なお、「鉄道ファン」No.229(1980.5)に掲載された、桔梗氏による「山中散生「列車特集」とアンプ「レール」の紹介」でも『列車詩集』の全編を読むことができる。
 表紙絵はカッサンドルの描いた有名なポスター「北極星号」。特別版135部にはグレーの皮革製コフル(カバー)がつく。

 また、メキシコの作家、フワン・ホセ・アレオラ(1918-2001)の『転轍手』は1952年に発表された小説で、駅に現われた転轍手の不条理な話が、目的地に辿り着けない旅行者を不安に陥れる。ちょっと、つげ義春の漫画「ねじ式」を思わせる、これもシュルレアリスム風の掌編。
 メキシコの作品に相応しく、インディオによる、樹皮のような手漉紙のアマテを表紙に用いている。特別版には若草色の皮革製コフルがつく(部数不明)。

E くろがねの馬の物語

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[14]

『E くろがねの馬の物語』佐々木桔梗
1970.9
プレス・アイゼンバーン

 他社の刊行ながら、ビブリオマーヌの本のような桔梗氏の著作に『E くろがねの馬の物語』がある。刊行は当時、松本謙一氏が主宰していたプレス・アイゼンバーン。この名称はビブリオマーヌの影響だとか。同社初期の『煙』や『HUDSON C62』といった豪華本もビブリオマーヌの影響だろう。
 『E くろがねの馬の物語』は、入間川の河原に放置されていた鉄道連隊のEタンクを題材とした写真集。夜間のライティングによって浮かびあがったEタンクが役者のごとく、かつての栄光を語るという小説仕立ての作品になっている。
 文庫本サイズのわずか32ページの本だが、それ故、可愛らしい魅力のある一冊。いのうえ・こーいち氏も、のちに同じ装本の『糸魚川のポプラの木』など、“白い小さな本”シリーズを刊行している。
 白の並装のほかに草色の布装が469部、特装が31部ある。特装版は、表紙に18金の蒸機のシルエットを嵌め込んだ白の総革装で、渋い藍の布装夫婦函に納まる。

雑誌にみる佐々木桔梗の著作

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[15]

 桔梗氏は鉄道専門誌にも数多く執筆した。なかでも「鉄道ジャーナル」には、1977年から1984年にかけて毎号のように執筆、「鉄道趣味の内側と外側 ポスターと書物のドラマ」(No.131 1978.1-No.160 1980.6)や「旅と文学と鉄道趣味 LE TRAIN FOU NHK・FM クロスオーバー・イレブンのための“汽車馬鹿”87の短篇」(No.161 1980.7-No.190 1982.12)は、ともに30回も続く連載となった。
 「ポスターと書物のドラマ」は、20世紀初頭に制作されたヨーロッパの鉄道ポスターを中心に、同時代の日本の捕物帳など、鉄道とは関係のない書籍も紹介した異色のエッセイ。「LE TRAIN FOU」は、副題にもある通り、NHK・FMの深夜番組として放送されていた「クロスオーバー・イレブン」向けのスクリプトを載録し、解説を加えたもので、毎回、ページの彩りに、内容とは関係のないホテルのラベルを載せている。
 桔梗氏が「クロスオーバー・イレブン」を担当したのは、番組が始まって間もない1978(昭和53)年の12月から翌年の3月。テーマはヨーロッパを中心とした旅と鉄道だが、万人向けとは思えない、氏ならではのマニアックな話題が展開する。
 自身のナレーションの合間に流れた音楽に関しては詳しく触れていないが、氏が度々エッセイで取り上げたオネゲル作曲「パシフィック231」同様の描写音楽、クラフトワークの「ヨーロッパ特急」については関心を示し、「長い走行曲は聴く者を魅了した」と記している。
 「鉄道ファン」には、「鉄道ファン・フォトサロン 佐々木桔梗作品集・消えゆく都電」(No.89 1968.11)といった一般的な鉄道写真のほか、「鉄道写真のあり方」(No.74 1967.8)のような写真論、「流線形礼讃!」(No.162 1974.10)をはじめとする、その後にビブリオマーヌの書籍となったエッセイなどがある。
 特筆したいのは「写真随筆 自動乗物と流線形C53」(No.81 1968.3)。戦前の浅草松屋の屋上にあったケーブルカーと豆汽車を紹介したエッセイで、当時から既に、こうしたものにもカメラを向けていたことに驚く。
 また、「特集:食堂車」に合わせた「メニュー雑感」(No.194 1977.6)では、戦後の一時期、大宮にあった「汽車のまち商店街」の、客車を改装した居酒屋の写真も載せている。
 鉄道専門誌以外では、「カメラビュー クラシックカメラ専科」No.26、27(1993.9、1993.12・朝日ソノラマ)掲載の「わたしの昭和ものがたり 汽車・カメラ・写真書」が、桔梗氏の鉄道とカメラとの関わりを知るうえで恰好の資料となる。
 「宮沢賢治」No.17(2006.6・洋々社)掲載の「「銀河鉄道の夜」と原風景」は最晩年の作品。氏は、「銀河鉄道の夜」の絵本に登場する汽車の多くが、いわゆる国鉄型なのが不満だったようで、小説のイメージとなった岩手軽便鉄道について詳述。また、古城武司が描いた漫画版の「銀河鉄道の夜」(1984・講談社)に登場するシェイギヤード・ロコについても触れている。

佐々木桔梗の作品リスト

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[16]

*リストは鉄道関連の作品のみ掲載。

◆ プレス・ビブリオマーヌの単行本
『VISITE D’ADIEU “LOCOMOTIVE” 告別の訪問“機関車”』
1969.5
『荷風「ふらんす鉄道物語」』
1973.4
『「濹東綺譚」の汽車・煙草・本』『私家版「濹東綺譚」の冩眞機』
1973.4-5
『流線形物語』
1974.10
『コートダジュール特急』
1975.春
『探偵小説と鉄道 -「新青年」63の事件-』
1975.冬
『ワゴン・リと美しき乗客へのオマージュ』
1977.3
『オリエント急行と文学』
1978.5
『カメラと機関車』
No.1 1970.2・No.2 1970.5・No.3 1971.1
『カメラと機関車 別冊「ロコ・アート」1』
1971.6
『幻想急行』(カメラと機関車 別冊「ロコ・アート」2)
1971.8
『街の中の蒸気機関車』(カメラと機関車 別冊「ロコ・アート」3)
1972.10

蔵書票(エクスリブリス)やイラストなどの付録もビブリオマーヌの本の愉しみ。左は『カメラと機関車』No.3特別版についていた小林ドンゲによるシュールな銅版画。初めて汽車を描いたという作品。

*プレス・ビブリオマーヌの鉄道関連書には、佐々木桔梗の著作以外にも下記のものがある。

『機関車のある風景』清水寥人
1970.10
『列車詩集』山中散生
1980
『転轍手』フワン・ホセ・アレオラ 桑名一博 訳
1980

ビブリオマーヌが1965(昭和40)年に刊行した小冊子『コレクション「サフィール」』と『コレクション《オパール》』。鉄道関連書ではないが、手前の《オパール》No.14には、ジョルジオ・デ・キリコの描いた汽車が掲載されている。

◆ その他出版社の単行本
『探偵 旅 書物』
1954.5 水曜荘
『E くろがねの馬の物語』
1970 プレス・アイゼンバーン

◆ 雑誌掲載の作品
◇「鉄道ファン」
「鉄道趣味と隣り合せの世界」
No.72 1967.6
「鉄道写真随想 鉄道写真のあり方」
No.74 1967.8
「らくらい餘話 -常磐線下り夜行列車群を撮る-」
No.76 1967.10
「東京の屋根の下 越中島貨物線」
No.78 1967.12
「写真随筆 自動乗物と流線形C53」
No.81 1968.3
「続・鉄道写真のあり方」
No.82 1968.4
「写真随筆 御殿場線追想」
No.85 1968.7
「鉄道ファン・フォトサロン 佐々木桔梗作品集・消えゆく都電」「都電への愛着」
No.89 1968.11
「上野のC51」
No.92 1969.2
「“アトリエS”断想」
No.109 1970.6
「“航空視覚”」
No.111 1970.8
「Ventilator 大江山線復活! -1ファンの提案-」
No.114 1970.11
「Ventilator 特別列車 “英国号”始末記」
No.118 1971.2
「カラー“ヨーロッパ汽車の旅”」
「“ヨーロッパ汽車の旅” 鉄道ファン氏の優雅な旅 ゴッタルド/セッテベロ/ワゴンリー/ミストラル」
No.129 1972.1
「ヨーロッパ汽車の旅 英国交通博物館と機関車たち」
No.131 1972.3
「若き蒸機ファンへのポストSL提言その1 鉄道写真と時代背景」
No.148 1973.8
「若き蒸機ファンへのポストSL提言その2 「ポストSL=SL」について」
No.149 1973.9
「若き蒸機ファンへのポストSL提言その3 鉄道趣味への文学的アプローチ」
No.150 1973.10
「若き蒸機ファンへのポストSL提言その4 鉄道写真の決定的瞬間」
No.151 1973.11
「流線形礼讃!」
No.162 1974.10
「“青列車”は紺碧海岸へ向う」
No.165 1975.1
「いや~ 一生の感激です! 英国鉄道150年記念機関車大行進」
No.176 1975.12
「ワゴン・リと美しき乗客へのオマージュ -その伝統と栄光の一世紀に捧げる散文詩-」
No.189 1977.1
「さらば“オリエント急行”」
No.193 1977.5
「メニュー雑感」
No.194 1977.6
「“上野”を撮って40余年……まだ残されている雪女の幻想」
No.196 1977.8
「東京・巴里・倫敦 メトロ・ストーリー」
No.198 1977.10
「田町・品川 思い出のアルバム」(高田隆雄との共著)
No.203 1978.3
「EXLIBRISのすすめ」
No.204 1978.4
「汽車の絵のあるマッチ物語」
No.209 1978.9
「山中散生「列車特集」とアンプ「レール」の紹介」
No.229 1980.5
「線路に響いた名調子 保線の唄」
No.251 1982.3
「リギバーンの古い銅版画に寄せて」
No.273 1984.1
「ヂンタ以来(このかた)-堀内敬三さんをしのぶ-」
No.275 1984.3

◇「鉄道ジャーナル」
「座談会 ルールを守って楽しく撮ろう」(司会)
No.33 1970.3
「鉄道のサービス 私はこう思う イギリスの海中電車と別荘車」
No.116 1976.10
「夢多き世界の特急列車」
No.119 1977.1-No.121 1977.3 連載3回
「鉄道趣味の新しい視座 装本芸術と汽車」
No.125 1977.7-No.130 1977.12 連載6回
「鉄道趣味の内側と外側 ポスターと書物のドラマ」
No.131 1978.1-No.160 1980.6 連載30回
「旅と文学と鉄道趣味 LE TRAIN FOU NHK・FM クロスオーバー・イレブンのための“汽車馬鹿”87の短篇」
No.161 1980.7-No.190 1982.12 連載30回
「半世紀前の超望遠&パノラマ撮影」
No.189 1982.11
「書物の中の贅沢列車」
No.191 1983.1
「明治の鉄道情景 渋沢篤二写真集『瞬間の累積から』」
No.192 1983.2-No.199 1983.9 連載8回
「私の好きな鉄道情景 海外編」
No.200 1983.10-No.207 1984.5 連載8回
「鉄道ジャーナル」に30回も連載された「ポスターと書物のドラマ」。

◇「鉄道ピクトリアル」
「都電新線670メートル」
No.205 1968.1

◇「蒸気機関車」
「鉄道101年目からの鉄道趣味 対談 佐々木桔梗/青山東男」
No.26 1973.7
「オリエント急行と蒸機」
No.38 1975.7

◇「SL」
「ボート・トレイン物語」
No.8 1973.春

◇「とれいん」
「夢多きワゴン・リ寝台車」
No.4 1975.4

◇「旅と鉄道」
「夜行列車への誘い」
No.20 1976.夏

◇「旅」(新潮社)
「鉄路と文学〈書斎の中のヨーロッパの旅〉」
1978.8

◇「カメラビュー クラシックカメラ専科」(朝日ソノラマ)
「わたしの昭和ものがたり 汽車・カメラ・写真書」
No.26 1993.9・No.27 1993.12
「ライカM2で撮ったC62のラスト・シーン 常磐線を行く「第2急行みちのく」の雄姿」
No.28 1994.3

◇「宮沢賢治」(洋々社)
「『銀河鉄道の夜』と機関車 -画集『ジョバンニ』後日談」
No.6 2001.6
「「銀河鉄道の夜」と原風景」
No.17 2006.6

◆ 共著単行本所収の作品
『クラウスよ永遠に』
「クラウスのことなど」
1969.6 西武百貨店
『C52・C53』
「欧亜連絡・シベリヤ鉄道」
1973.10 プレス・アイゼンバーン
『上越線を行く列車』
「川端文学『雪国』の幻想と撮影行」
1977 プレス・アイゼンバーン