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揖斐の夏

キャプションの詩

小学生の頃、よくでかけていた伯母の家の近くに古本屋があって、そこに“中綴じ”時代の古い「鉄道ファン」が積まれていた。
古いといっても1970年代初頭の話だから、数年前のバックナンバーだったのだが、少年の時分にはえらく昔のもののように思われた。
当時から旧型の車輛に興味があった私は、その「鉄道ファン」を数冊まとめて買うと、飽かずに眺めては、お気に入りの記事のフレーズを繰り返し読んだ。こうした読書の思い出は私だけではないだろう。

ibi-01ibi-02「鉄道ファン」No.49 白井良和著「名古屋鉄道支線めぐり」

「鉄道ファン」No.49(1965.7)掲載の白井良和氏による「名古屋鉄道支線めぐり」もその一つで、単車2輛を一つに繋いで連接車化したモ401も魅力的だったが、「揖斐の夏」と題された写真の、詩のようなキャプションに魅了されてしまった。

揖斐の夏 その1 名鉄谷汲線 谷汲-結城 モ161+モ186 1962年5月
緑したたる雑木林の間をぬって、
名鉄の古強者が岐阜忠節へと下って行く。
樹海に響くタイフォンの音に、
騒々しかった蝉しぐれも一瞬とぎれ、
しばらくは梢にそよぐ葉ずれの音と、
せわしげなジョイントの音の天下となる。

揖斐の夏 その2 名鉄揖斐線 星野-中之元 モ401
揖斐の里の夏は暑い。
フナやメダカを追う童たちが家路につくころ、
単車のハコを二つつないだインスタント連接車が、
車体一杯に斜陽を浴びてトコトコとやって来た。
本揖斐に向かうわずかの客を乗せて……

試しにキャプションを句読点で改行してみたが、殆ど詩になっている。
「その1」の写真は5月の撮影で“蝉しぐれ”には早過ぎるが、強い日差しが真夏を感じさせる。おそらく7月号の掲載に合わせて、キャプションを夏向きに創作したのだろう。
白井氏か、それとも編集者によるものか。昔の趣味人は詩才があった。

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愛知県の岡崎市南公園に保存される名鉄モ401(2007年8月撮影)。
少年時代の憧れだった401が今も健在なのは嬉しい。連接車はその構造が珍しいためか保存されている車輛が多い。惜しむらくは、401と同じように単車2輛を連接車化した仙台市電の300形がなくなってしまったこと。