織田一磨の「五反田」

絵画に見る鉄道の風景[1]

 大正から昭和初期にかけて都市風景を数多く描いた版画家、織田一磨(1882-1956)のリトグラフを収集している。同時代のいわゆる新版画、川瀬巴水や吉田博の木版画がブームで高騰しているなか、リトグラフの織田作品は比較的安く入手できるのがいい。
 ここに紹介するのは1932(昭和7)年に制作された『東京近郊八景』のなかの「五反田」。『東京近郊八景』は、荷風の「濹東綺譚」の舞台となった玉ノ井の銘酒屋や、飛鳥山の王子製紙の工場など、名所を“外した”風景を題材とした作品で、この「五反田」では池上電鉄(現・東急池上線)五反田駅付近の高架線を描いている。目黒川に架かる橋のあたりからの眺めで、高架駅には電車が停まる。電車の“おへそライト”のように見えるものは円形のサボと思われる。
 池上線の大崎広小路〜五反田間の高架線は1928(昭和3)年の開業。当初は五反田からさらに白金、品川方面へ延伸する計画だったため、ビル4階の高さで山手線を跨いでいる。
 周辺に高層建築がなかった昭和初期には、五反田のランドマーク的な存在だったのだろう。織田一磨が「五反田」を制作した年、前川千帆も『新東京百景』のなかの一点として、山手線の五反田駅ホームから望んだ池上線の高架駅を木版画にしている。