機関車のある風景

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[12]

『機関車のある風景』清水寥人
1970.10・限定1000部
プレス・ビブリオマーヌ

 ビブリオマーヌが刊行した鉄道関連書の殆どは桔梗氏自身によるものだが、他の著者によるものも数冊存在する。清水寥人(1920-1994)の小説『機関車のある風景』はその1冊。
 清水寥人は国鉄の機関士として業務を続けながら創作活動を行った作家で、定年退職を間近に控えた機関士の悲哀を綴った「機関士ナポレオンの退職」など、職場での体験を活かした小説を残しているが、この『機関車のある風景』も、機関士の夫を事故で亡くし、列車の清掃婦として働く未亡人の日々を描いている。
 舞台は、国鉄の蒸機が消えようとしていた昭和40年代の高崎周辺。清水寥人の郷里は高崎に近い信越本線の安中で、この作品にでてくる風景はすべて実景だという。
 「汽笛の音に驚いたのか、煤煙に汚れた十数羽のまっ黒雀が、いっせいに給炭台からとびたった。」など、蒸機が待機する構内のリアルな描写も、実際に鉄道の仕事をしていた著者ならでは。
 黒岩保美によるペン画(一部に版画)の挿絵が、この小説をより趣深いものにしている。
 並装625部のほかに特装版375部。特装版(画像のもの)は、純金番号入りの蒸機のシルエットを表紙に嵌入した白の総革装で、紺の布装夫婦函に納まる。