探偵小説と鉄道

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[6]

佐々木桔梗『探偵小説と鉄道 -「新青年」63の事件-』
プレス・ビブリオマーヌ
1975.冬・限定570部

 1920(大正9)年に創刊された青年向け雑誌『新青年』に掲載された内外の探偵小説のなかから、鉄道事件ものを取り上げ、掲載当時の鉄道事情などと併せて解説したもの。ビブリオマーヌの創立20周年記念として上梓された。
 鉄道ミステリーの代表作、コナン・ドイルの「臨時急行列車の紛失」を巻頭に全63篇。巻末では雑誌『探偵小説』掲載の作品についても触れている。
 ちなみに、桔梗氏自身、探偵小説を執筆していたこともあるというから(小説は碓氷峠を想定して、ラック・レールをトリックに用いたものだったとか)、その考証にも力が入っている。
 例えば、ジョン・ケイ・レイスの「或る判事の奇禍」では、主人公が列車に乗ったロンドンの駅を解説するため、市内にある17の始発駅の行き先に加え、1923年のグループ統合前と後の鉄道名も紹介する。
 また、白鳥香一のノンフィクション「襲われた列車」では、満人の匪賊に襲われた鉄道を、昂々溪-チチハル間を走っていた斉昂軽便鉄道と解説。その詳細を記している。
 表紙の絵は横山隆一が描いたクロフツ著「急行列車殺人事件」の挿画。また、本書にはシャーロック・ホームズからの書状のような栞がつく。
 特装本の170部は、赤の総革装で表紙絵にルビーを嵌入。“著者愛蔵用”として、黒革の表紙に革細工の橋梁とミニチュアのシェイギヤード・ロコをつけた別装も制作している。

『季刊銀花』No.40(文化出版局・1979.12)より。中央上の赤い表紙が『探偵小説と鉄道』の特装本、その下のミニチュアの汽車がついた、黒にストライプの表紙が著者用の別装本。

ワゴン・リと美しき乗客へのオマージュ

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[7]

佐々木桔梗『ワゴン・リと美しき乗客へのオマージュ』
プレス・ビブリオマーヌ
1977.3・限定306部

 あなたは美しい あたりを粛然とさせるくらい美しいと思うのです たった一枚の写真ですけれど 何時間でも凝っと眺めていられるのです……

 貴婦人がワゴン・リに乗ろうとしている一枚の写真から、桔梗氏がイメージを膨らませ、その貴婦人とワゴン・リに捧げた散文詩の冊子。詩は『鉄道ファン』No.189(1977.1)掲載の同名の作品に加筆したもの。
 装幀は並装のみだが、“著者愛蔵用”として、金箔の縁を配した黒革の函入り(6章『探偵小説と鉄道』に載せた画像の左下)も制作している。

(所蔵:中部浩佐氏)

オリエント急行と文学

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[8]

佐々木桔梗『オリエント急行と文学』
プレス・ビブリオマーヌ
1978.5・限定1035部

 由緒あるパリ-イスタンブル間のダイレクト・オリエント急行が廃止になった1977年5月22日の1年後に刊行された。副題は「文学渉猟によるオリエント急行物語」。オリエント急行に捧げる小説や詩などの引用を掲載している。『鉄道ファン』No.193(1977.5)に掲載された「さらば“オリエント急行”」が原型だが、そこで紹介された引用は50点、本書ではその数300点を超える。
 アガサ・クリスティの『オリエント急行殺人事件』もあれば、夢野久作の『ドグラ・マグラ』のようなオリエント急行と関係のない作品の引用も。
 また、桔梗氏自身の文章も引用。そのなかには1954(昭和29)年に水曜荘より刊行された限定100部の初めての著書『探偵 旅 書物』からのものもある。
 文中には、1906(明治39)年に、ワゴン・リ社が日本の山陽鉄道へ売り込みにきたが実現せず、今日まで日本の線路にワゴン・リの車輛は1輛も走らなかったとあるが、この本が刊行されたちょうど10年後、バブル景気に沸いていた時期に「オリエントエクスプレス’88」が日本各地を走った。

 表紙のイラストは、ドイツのポスターを用いた、今はなき「赤い動輪のある喫茶室 ゼロイチ」のマッチラベル。猫が汽車の煙の上で気持ち良さそうに眠っている。装幀には“サロン車本”(131部)、“食堂車本”(131部)、“寝台車本”(773部)と称する3種類があり、サロン車本(画像のもの)は、白の丸背総革装。『流線形物語』と同様、革装の中にボールベアリングが入れられ、本を振ると列車の走行音のような音を奏でる仕掛けになっている。

告別の訪問“機関車”

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[9]

佐々木桔梗『VISITE D’ADIEU “LOCOMOTIVE” 告別の訪問“機関車”』
プレス・ビブリオマーヌ
1969.5・限定1125部

 真冬の長万部、足回りを雪で白くしたC62の重連を斜め後方から捉えた写真。『SL』No.10(交友社・1976)の「忘れ得ぬ蒸気機関車情景」にも選ばれたこの1枚を中心に構成した写真集。
 刊行当時の1960年代末はSLブームの真っ只中、C62の写真集は「驚異的な早さで売り切れてしまった」という。
 フランス語のみの洋書を思わせる表紙は、桔梗氏が影響を受けたドイツの「LOK MAGAZIN」を意識したデザイン。そのため敢えてドイツ語にせずフランス語にしたのだろう。
 装幀は従来のビブリオマーヌらしからぬ雑誌風だが、厚口の紙を用いて、写真と文章を異なるインクで印刷するなど、プライベート・プレスならではのこだわりが感じられる。
 また、蒸気機関車への別れとともに、長年蒐集してきた「切手にも別れの手を振ろう」と、汽車の絵柄の切手を、巻頭ページに1枚ずつ貼付けている。