佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ」カテゴリーアーカイブ

コートダジュール特急

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[5]

『コートダジュール特急』佐々木桔梗
1975.春・限定355部
プレス・ビブリオマーヌ

 副題は「文学渉猟によるブルートレイン物語」。「ブルートレイン」は、もともとフランスで19世紀末に走り始めた、リゾート地のコート・ダジュール(紺碧海岸)へ向かう豪華なワゴン・リの寝台列車総称だった。
 フランス語で「Le Train Bleu」(ル・トレーン・ブルー)と呼ばれたそれらは、当初、車体の色ではなく、目的地の紺碧海岸の色を意味するものだったのだが、のちに客車の色も、ブラウンから名称に相応しいブルーに変更されたという。
 格式のあるワゴン・リの寝台車や食堂車を連結したブルートレインは、旧き佳き時代、まさにベル・エポックの“走るホテル”だった。
 『コートダジュール特急』は、桔梗氏が得意とする“文学渉猟”。ブルートレインを扱った小説や詩などを引用している。なかには直接関係のない話もでてきて、少々冗長なところもあるが、そうした余談もまた、桔梗氏のエッセイの魅力といえるだろう。
 本書は「鉄道ファン」No.165(1975.1)掲載の「“青列車”は紺碧海岸へ向う」がその原型で、「とれいん」No.4(1975.4)掲載の「夢多きワゴン・リ寝台車」は本書の抜粋版になる。

 装幀には“愛書家用贅沢編成”(165部)、“ファン用軽量編成”(190部)と称する2種類があり、愛書家用贅沢編成(画像のもの)は紺碧色の総革装。ピエール・フィックス・マッソーによる機関車の表紙絵に、ライトを模した宝石を嵌め込んでいる。

探偵小説と鉄道

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[6]

『探偵小説と鉄道 -「新青年」63の事件-』佐々木桔梗
1975.冬・限定570部
プレス・ビブリオマーヌ

 1920(大正9)年に創刊された青年向け雑誌「新青年」に掲載された内外の探偵小説のなかから、鉄道事件ものを取り上げ、掲載当時の鉄道事情などを解説したもの。ビブリオマーヌの創立20周年記念として出版された。
 鉄道ミステリーの代表作、コナン・ドイルの「臨時急行列車の紛失」を巻頭に全63篇。巻末では「探偵小説」掲載の作品についても触れている。
 ちなみに、桔梗氏自身、探偵小説を執筆していたこともあるというから(小説は碓氷峠を想定して、ラック・レールをトリックに用いたものだったとか)、その考証にも力が入っている。
 例えば、ジョン・ケイ・レイスの「或る判事の奇禍」では、主人公が列車に乗ったロンドンの駅を解説するため、市内にある17の始発駅の行き先と併せて、1923年のグループ統合前と後の鉄道名も紹介する。
 また、白鳥香一のノンフィクション「襲われた列車」では、満人の匪賊に襲われた鉄道を、昂々溪-チチハル間を走っていた斉昂軽便鉄道と解説。その詳細を記している。
 表紙の絵は横山隆一が描いたクロフツ著「急行列車殺人事件」の挿画。また、本書にはシャーロック・ホームズからの書状のような栞がつく。
 特装本の170部は、赤の総革装で表紙絵にルビーを嵌入。著者愛蔵用として、黒革の表紙に革細工の橋梁とミニチュアのシェイギヤード・ロコをつけた別装も制作している。

「季刊銀花」No.40(1979.12・文化出版局)より。中央上の赤い表紙が『探偵小説と鉄道』の特装本、その下のミニチュアの汽車がついた、黒にストライプの表紙が著者用の別装本。

ワゴン・リと美しき乗客へのオマージュ

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[7]

『ワゴン・リと美しき乗客へのオマージュ』佐々木桔梗
1977.3・限定306部
プレス・ビブリオマーヌ

 あなたは美しい あたりを粛然とさせるくらい美しいと思うのです たった一枚の写真ですけれど 何時間でも凝っと眺めていられるのです……

 貴婦人がワゴン・リに乗ろうとしている一枚の写真から、桔梗氏がイメージを膨らませ、その貴婦人とワゴン・リに捧げた散文詩の冊子。詩は「鉄道ファン」No.189(1977.1)掲載の同名の作品に加筆したもの。
 装幀は並装のみだが、著者愛蔵用として、金箔の縁を配した黒革の函入り(6章『探偵小説と鉄道』に載せた画像の左下)も制作している。

(所蔵:中部浩佐氏)

オリエント急行と文学

佐々木桔梗とプレス・ビブリオマーヌ[8]

『オリエント急行と文学』佐々木桔梗
1978.5・限定1035部
プレス・ビブリオマーヌ

 由緒ある由緒あるパリ-イスタンブル間のダイレクト・オリエント急行が廃止になった1977年5月22日の1年後に刊行された。副題は「文学渉猟によるオリエント急行物語」。オリエント急行に捧げる小説や詩などの引用を掲載している。「鉄道ファン」No.193(1977.5)に掲載された「さらば“オリエント急行”」が原型だが、そこで紹介された引用は50点、本書ではその数300点を超える。
 アガサ・クリスティの『オリエント急行殺人事件』もあれば、夢野久作の『ドグラ・マグラ』のようなオリエント急行と関係のない作品の引用も。
 また、桔梗氏自身の文章も引用。そのなかには1954(昭和29)年に水曜荘より刊行された限定100部の初めての著書『探偵 旅 書物』からのものもある。
 文中には、1906(明治39)年に、ワゴン・リ社が日本の山陽鉄道へ売り込みにきたが実現せず、今日まで日本の線路にワゴン・リの車輛は1輛も走らなかったとあるが、この本が刊行されたちょうど10年後、バブル景気に沸いていた時期に「オリエントエクスプレス’88」が日本各地を走った。

 表紙のイラストは、ドイツのポスターを用いた、今はなき「赤い動輪のある喫茶室 ゼロイチ」のマッチラベル。猫が汽車の煙の上で気持ち良さそうに眠っている。装幀には“サロン車本”(131部)、“食堂車本”(131部)、“寝台車本”(773部)と称する3種類があり、サロン車本(画像のもの)は、白の丸背総革装。『流線形物語』と同様、革装の中にボールベアリングが入れられ、本を振ると列車の走行音のような音を奏でる仕掛けになっている。